内製と外注どちらがいい?新規事業システムの判断軸
新規事業のシステムを内製と外注のどちらで進めるかは、事業の性質と社内の状況によって答えが変わります。この記事では、判断に使える5つの軸と、内製・外注それぞれが向くケースを整理します。あわせて、二択にせず「フェーズ」や「領域」で分ける考え方と、外注を選ぶときに事前に確かめたい点も扱います。
内製と外注の違いと、新規事業ならではの難しさ
まず言葉を揃えておきます。ここでいう内製は、自社の社員(または自社で雇用するエンジニア)がシステムを設計・開発・運用することです。外注は、社外の開発会社に開発を依頼することを指します。外注のうち、仕様に沿って開発を請け負う形は「受託開発」と呼ばれます。契約形態や依頼の流れは、受託開発とは?依頼の流れ・契約形態・新規事業の選び方で詳しく整理しています。
実際には、この二つの間にもいくつかの形があります。
- 社内のエンジニアと外部の開発会社が一緒に開発を進める形
- 開発は外部に任せ、要件の判断や運用は社内で持つ形
- 最初は外部で作り、軌道に乗ったあとで社内に移す形
つまり「内製か外注か」は、本来はグラデーションのある選択です。
新規事業は、業務システムの選択とは前提が違う
内製か外注かの議論は、社内の業務システムを作り替える場面でもよく出てきます。ただ、新規事業のシステムには、その場面にはない難しさがあります。
- 要件が固まりにくい:誰にどう使われるか、実際に市場に出すまで分からない部分が大きい
- 事業の成否が不確か:作ったシステムが、事業ごと見直しになる可能性がある
- システムが事業の中身になることがある:マッチングサービスのように、システムそのものが提供価値になる事業では、開発の出来がそのまま事業の出来になる
- 速度が重要:検討に時間をかけすぎると、市場や社内の状況が変わってしまう
業務の効率化なら、現状の業務を観察すれば要件はおおよそ見えます。新規事業では、観察できる現状がそもそもありません。そのため、「安いほう」「慣れているほう」といった一般的な基準だけでは判断しにくいのです。
判断に使える5つの軸
私たちは、内製と外注の判断は次の5つの軸で見ると整理しやすいと考えています。どれか一つで決めるのではなく、全体の傾きを見るのがポイントです。
軸1:システムは事業の「核」か「周辺」か
システムが事業の差別化の源泉になる場合、開発で得た知見は会社の資産になります。どんな機能が支持され、どこで使われなくなるのかという学びが、事業の競争力に直結するためです。こうした核の部分は、社内に判断力を残しておく必要が大きくなります。
一方、決済や会員管理、問い合わせ対応などの周辺部分は、事業の独自性とは直接関係しにくい領域です。社外の力を借りやすい部分と言えます。
ここで大切なのは、核を外注してはいけないという意味ではないことです。核を外注する場合でも、「何を作るか」の判断は社内に残しておく必要があります。この点は後半で改めて触れます。
軸2:要件の固まり具合
要件が固まっているほど、外注も内製も進めやすくなります。逆に、アイデア段階で要件が曖昧な場合は、どちらを選んでも「作ってから違うと気づく」リスクがあります。
要件が曖昧な時期に重要なのは、内製か外注かよりも、実物を早く見て修正できる進め方かどうかです。要件の抜け漏れやズレを防ぐ考え方は、要件定義とは?新規事業で抜け漏れとズレを防ぐ進め方にまとめています。
軸3:社内の人材と経験
次に確認したいのは、社内に次の経験を持つ人がいるかどうかです。
- Webサービスやアプリの設計・開発の経験
- 本番環境の運用、障害対応、セキュリティ対策の経験
- 要件を整理して、開発の優先順位を決められる人
経済産業省が公表している「IT人材需給に関する調査」などでも、IT人材の不足が見込まれていることが示されています。エンジニアの採用が簡単ではない状況は、多くの会社に共通しています。
エンジニアが社内にいない場合の進め方は、新規事業でエンジニアいない会社の進め方でも整理しています。採用が前提の内製計画は、採用が遅れた分だけ事業全体が遅れる点に注意が必要です。
軸4:確かめたい時期と速度
新規事業では、「いつまでに市場の反応を見たいか」が重要です。採用から始める内製は、体制づくりに時間がかかります。すでに開発チームがあれば、立ち上がりは速くなります。
外注は、依頼先が決まってから動き出せる分、立ち上げを早めやすい面があります。ただし、依頼先の選定や要件の説明に時間がかかれば、その利点は小さくなります。
軸5:立ち上げ後の運用と改善の体制
新規事業のシステムは、公開した後の改善が事業の成否を左右します。そのため、作るときだけでなく、運用と改善を誰が担うかも判断の軸に入れておきたいところです。
- 不具合が出たとき、誰がどのくらいの速さで対応するか
- 毎月の改善や機能追加を、誰が、どのくらいの余力で進めるか
- 担当者が異動・退職しても、システムの中身を引き継げるか
システムは納品後の改善で育てる|新規事業の考え方で書いているとおり、公開後の使われ方を見ながら育てていく姿勢が、新規事業のシステムでは大切です。
5つの軸を表で整理する
| 判断の軸 | 内製に寄せやすい | 外注に寄せやすい |
|---|---|---|
| システムの位置づけ | 事業の核で、知見を社内に溜めたい | 周辺機能で、独自性が小さい |
| 要件の固まり具合 | 社内で試行錯誤を続けられる | 外部の力で早く形にして確かめたい |
| 社内の人材 | 開発・運用の経験者がいる | 経験者がいない、または足りない |
| 速度 | すでに開発チームがある | 体制をこれから作る段階 |
| 運用と改善 | 社内で継続して担える | 運用や改善の余力が社内に少ない |
この表は、どちらかに寄せやすい「傾き」を示すものです。5つの軸がすべて同じ側に揃うことは少なく、軸ごとに傾きが違う場合は、後述の「分ける」考え方が役に立ちます。
内製が向く場合と外注が向く場合
5つの軸を踏まえて、それぞれが向くケースをもう少し具体的にしてみます。
内製が向きやすいケース
- すでに社内に開発チームがあり、新規事業に割ける余力がある
- システムが事業の核で、改善のサイクルを社内の事業側と密に回したい
- 機密性が高いデータや技術を扱い、社外に出したくない
- 長期にわたり同じ領域でシステムを育てていく前提がある
内製の強みは、事業の学びとシステムの知見が同じ場所に溜まることです。改善の意思決定が速くなる点も、内製ならではの利点です。
ただし、人を採用して育てるには時間がかかります。事業が計画どおりに進まなかった場合、体制の固定費が課題になることもあります。
外注が向きやすいケース
- 社内にエンジニアがいない、または新規事業に割ける余力がない
- 早く動くものを作って、事業性を確かめたい
- 専門性の高い領域で、社内に経験者がいない
- 事業が続くかどうか分からない段階で、体制を固定したくない
外注の強みは、必要な経験を持つ人を、必要な時期に使えることです。
一方で、外注には特有の失敗があります。言葉だけで要件を決めたために、完成品が思っていたものと違った、という事故です。依頼側の準備や進め方にも原因があることが多く、外注という手段そのものが悪いわけではありません。起きやすい失敗と対策は、システム開発の外注ガイド|依頼の流れと失敗の防ぎ方で整理しています。
AI駆動開発は、内製と外注の判断をどう変えるか
近年は、生成AIを開発に使う「AI駆動開発」が広がっています。AIが設計やコード作成を支援することで、少人数でも作れる範囲は広がりました。内製の選択肢を考えやすくなった面はあります。
ただ、AIを使えば内製の難しさが消えるわけではありません。何を作るかの判断、品質の最終確認、セキュリティの確認は、人が担う部分です。AI開発でも品質には人の確認が必要な理由やAI生成コードのセキュリティ|確認点と人の役割で述べているとおり、AIで作る速度が上がるほど、確認する人の力が大切になります。
外注でも、AIを使う開発会社が増えています。その場合に確かめたい点は、AI受託開発に依頼する前に確かめたい6つのことにまとめました。AIの役割分担そのものを知りたい場合は、AI駆動開発とは|AIと人の役割分担と発注側の要点も参考になります。
二択にしない分け方:フェーズと領域で分ける
5つの軸の傾きが揃わないとき、全部を内製か全部を外注かに決めると、どこかに無理が出ます。そこで有効なのが、フェーズと領域で分ける考え方です。
フェーズで分ける
新規事業は、大まかに次の段階を進みます。
- 構想・検証の段階:アイデアが事業になるかを確かめる
- 立ち上げの段階:最初のお客様に使ってもらう
- 成長・運用の段階:使われ方を見ながら改善を重ねる
検証の段階は、速度と柔軟さが求められます。この時期は外部の力を借りて動くものを早く用意し、事業性を確かめるやり方があります。小さく作って確かめる投資判断の進め方は、新規事業の開発は小さく作って確かめる投資判断の進め方で解説しています。
事業に手応えが出て、長く育てる段階に入ったら、運用や改善の一部を社内に移していくという選択肢も出てきます。この場合は、最初の外注の時点で、あとから引き継げる状態にしておくことが前提です。確認点は次の節で触れます。
領域で分ける
もう一つは、システムの中身で分ける方法です。
- 事業の核になる部分:何を作るかの判断を社内に残す。開発を外部に任せる場合も、仕様の判断は社内で行う
- 周辺の部分:決済、認証、通知など、一般的に整っている仕組みは外部の力や既存の仕組みを活用する
この分け方のポイントは、「手を動かす人」と「判断する人」を分けて考えることです。手を動かす部分は外部に任せても、何を作るかを決める役割は社内に残します。この役割分担は、AI駆動開発での人とAIの分担とも似ています。人が決めるのは「何を作るか」と「品質の最終判断」であり、そこを手放さないことが、外注でも内製でも共通する土台になります。
「作るか」の前に、そもそも何を作るかを絞る
内製か外注かを議論する前に、最初に作る範囲を絞っておくと、判断がかなり楽になります。機能の数が多いほど、体制も期間も大きくなるためです。最初に作るものと後回しにするものの基準は、MVP開発の機能の絞り方|最初に作るものと後回しの基準にまとめています。
範囲が絞れていないまま「どちらがいいか」を議論しても、議論は噛み合いません。「何を」が決まって初めて、「誰が」を考えられます。
外注する場合に事前に確かめたいこと
外注を選ぶ、あるいは一部だけ外注する場合に、事前に確かめておきたい点を整理します。
進め方:実物を見ながら判断できるか
外注の失敗でよく見られるのは、言葉だけで要件を決めたことによる認識違いです。企画書や仕様書は、文章の読み方が人によって違うため、完成してから「思っていたものと違う」となりがちです。
動くものを見ながら「ここはこう」と指摘できる進め方であれば、この種のズレは早い段階で直せます。詳しくはシステム開発の認識のズレを防ぐ、実物を見ながらのすり合わせで述べています。
あわせて、費用と仕様を最初に固めきってから契約する進め方にも注意が必要です。実物を見てから契約を判断できるかどうかは、確かめておきたい項目の一つです。
権利:ソースコードや成果物は誰のものか
内製に切り替える、別の会社に引き継ぐといった将来の選択肢を残すには、成果物の権利関係を契約前に確認しておく必要があります。システム開発の著作権帰属は誰のもの?契約前の確認点で確認点を整理しています。
引き継ぎ:改修しやすい状態で渡されるか
運用の段階で社内に移す、あるいは別の担当者が改修するには、システムが読みやすく、直しやすい状態であることが前提です。AIで作られたコードの場合の見方は、AI生成コードの保守は可能か|引き継ぎと改修の確認点が参考になります。
公開後:誰が育ててくれるか
作って終わりでは、新規事業のシステムは成長しません。公開後の不具合対応や、毎月の改善をどのように支えてもらえるのかは、依頼先を選ぶうえで重要な視点です。
そのほかの視点は、システム開発会社の選び方|新規事業で失敗しない7つの視点にまとめています。過去に外注で失敗した経験がある場合は、システム開発の外注で失敗後のやり直し|再依頼の見直し点も役立ちます。
仕様が固まっていなくても、相談できるか
新規事業の初期は、仕様が固まっていないのが普通です。「仕様が決まってから来てください」と言われてしまうと、相談の入口がなくなります。仕様が未確定の段階でどう相談できるかは、仕様が決まってないシステム開発の相談は可能かで扱っています。相談前の整理は、システム開発を依頼する前の準備と流れ|新規事業編も参考にしてください。
まとめ
新規事業のシステムを内製と外注のどちらで進めるかについて、この記事の要点を整理します。
- 「どちらがいい」は、事業の性質と社内の状況で変わる。一律の正解はない
- 判断の軸は5つ。システムが事業の核か周辺か、要件の固まり具合、社内の人材と経験、確かめたい時期と速度、公開後の運用と改善の体制
- 軸の傾きが揃わないときは、二択にせず、フェーズ(検証・立ち上げ・成長)や領域(核・周辺)で分けて考える
- 内製でも外注でも、「何を作るか」と「品質の最終判断」は社内に残す
- 外注では、実物を見ながら判断できるか、権利関係、引き継ぎやすさ、公開後の支援、仕様未確定でも相談できるかを事前に確かめる
最初に内製か外注かを決め切ろうとすると、情報が足りないまま判断することになります。作る範囲を絞り、動くものを早く確かめ、その結果を見て体制を決めていく流れのほうが、新規事業には合っていると私たちは考えます。
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