システム開発のNDA|秘密保持で決める8つの項目
新規事業のアイデアを開発会社に相談するとき、「どこまで話してよいのか」「話した内容を別の用途に使われないか」と不安になる場面は少なくありません。この記事では、システム開発の相談前に結ぶ秘密保持契約(NDA)で何を決めておくとよいかを、項目ごとに整理します。NDAでできることとできないこと、条文で見落としやすい点、結んだ後の情報の渡し方まで確認できます。
なお、契約書の文面は事業の内容や取引の形によって変わります。ここで紹介するのは一般的な考え方であり、実際に契約書を取り交わす際は、弁護士など専門家にも確認することをおすすめします。
NDAで守れるものと守れないもの
NDAは「Non-Disclosure Agreement」の略で、秘密保持契約と訳されます。相手に伝えた情報を、決めた目的以外に使わないこと、第三者に漏らさないことを約束する契約です。システム開発の相談では、事業の構想や顧客像、収益の仕組みなどを開発会社に伝える必要があるため、相談の入り口で話題になります。
アイデアそのものは法律で守られにくい
新規事業の企画段階のアイデアは、特許や著作権で守られていないことがほとんどです。著作権法が保護するのは文章や図、プログラムといった「表現」であり、「こういう事業をやる」というアイデアそのものは対象になりません。特許も、出願して認められた発明が対象です。構想の段階で話した内容は、法律だけでは守りにくい部分が残ります。
そこで、契約によって「この情報は秘密として扱う」「この目的以外には使わない」と相手と約束しておくことが、実務上の守り方の中心になります。
営業秘密として扱われるための前提
不正競争防止法では、一定の情報が「営業秘密」として保護されます。一般には、次の3つの要件を満たす必要があるとされています。
- 秘密として管理されていること(秘密管理性)
- 事業活動に役立つ情報であること(有用性)
- 公然と知られていないこと(非公知性)
NDAを結び、秘密である情報を明確にしたうえで渡すことは、秘密として管理していることを示す材料の一つになります。ただし、NDAを結べば営業秘密として認められると決まるわけではありません。秘密情報の管理の考え方については、経済産業省が「秘密情報の保護ハンドブック」を公開しており、契約書の参考例も示されています。文面を考えるときの参考になります。
NDAの限界も知っておく
NDAは、情報の取り扱いについて約束する契約です。次のことは、NDAだけでは決まりません。
- 開発したシステムやソースコードの権利が誰のものになるか
- 開発会社が似た分野の案件を受けてよいか
- 個人情報など法令上の扱いが決まっているデータの取り扱い
これらは別の契約や取り決めで確認します。詳しくは後の章で触れます。
結ぶ前に:どの情報をどの段階で伝えるか
NDAの条文を考える前に、そもそもどの情報を、どの段階で渡すのかを整理しておくと、契約書で決める範囲が見えやすくなります。NDAを結んだ後でも、渡す情報は必要な範囲にとどめるのが基本です。
情報を3つの段階に分けて考える
私たちは、相談で渡す情報を次のように分けて考えることを勧めます。
- 概要の段階:解決したい課題、対象とする業界、どんな種類のサービスを考えているか。一般に説明できる範囲の内容です。
- 事業の中身の段階:想定する顧客、収益の仕組み、他と違う点、ユーザーの使い方の流れ。ここから先はNDAを結んでから話すのが無難です。
- 中核の段階:独自のノウハウ、取引先や提携先の名称、価格設計の詳細、未公開の数値。開発に必要になった時点で、必要な人にだけ渡します。
最初の面談で3の段階まで話す必要はほとんどありません。システムの見積もりや進め方の相談であれば、2の段階までで足りることが多いはずです。
「何を作るか」と「なぜ勝てるか」を分ける
開発会社に伝える必要があるのは「何を作るか」です。「なぜその事業が勝てるのか」の根拠となる情報は、開発の判断に直接必要でない場合があります。たとえば顧客リストの中身や仕入れ先の条件は、画面や機能の設計には関わらないことが多く、渡さずに進められます。
仕様がまだ固まっていない段階でも、概要から相談を始めることはできます。詳しくは仕様が決まってないシステム開発の相談は可能かでも整理しています。
NDAで決めておきたい8つの項目
ここからは、NDAの条文で確認したい項目を順に見ていきます。雛形をそのまま使う場合でも、新規事業の相談では次の8点が自分たちの状況に合っているかを読み合わせておくと安心です。
1. 秘密情報の範囲
何を秘密情報とするかの定め方には、大きく2つあります。
- 開示する側が「秘密」と表示した情報だけを対象にする
- 秘密と表示されていなくても、性質上秘密と考えられる情報を広く対象にする
新規事業の相談では、打ち合わせでの口頭の説明や、ホワイトボードに書いた図、チャットでのやり取りも多くなります。秘密の表示を条件にすると、口頭で伝えた内容が対象から外れる可能性があります。口頭の情報についても、一定期間内に書面などで秘密である旨を知らせれば対象にする、といった書き方があります。どの方法が自分たちの進め方に合うかを確認します。
2. 秘密情報から外れる情報
多くのNDAには、次のような情報を秘密情報から除く定めがあります。
- 開示を受けた時点で、すでに公に知られていた情報
- 開示を受けた後、相手の責任によらず公に知られた情報
- 開示を受ける前から、相手がすでに持っていた情報
- 正当な権限を持つ第三者から、秘密保持の義務なしに入手した情報
- 開示された情報を使わずに、相手が独自に開発した情報
一般的な条項ですが、最後の「独自に開発した情報」は、立証の仕方によって争いの種になりえます。そのため、外れる情報を主張する側が、記録などで裏付けることを条文に入れる方法もあります。
3. 使ってよい目的
NDAでは、秘密情報を使える目的を限定します。「システム開発の可否と進め方を検討する目的」のように、具体的に書くことが大切です。「業務上必要な範囲で」といった広い書き方だと、目的の範囲が曖昧になります。
開発の相談段階のNDAと、開発に入った後の契約とでは、目的が変わります。相談が進んで開発の契約を結ぶ際には、目的が「開発の検討」から「開発の実施」に移ることを踏まえて、秘密保持の条項を引き継ぐか、新しく取り決めます。
4. 開示してよい相手(再委託・AIツールを含む)
秘密情報を誰に見せてよいかも、重要な項目です。
- 開発会社の社内で、秘密情報を知ってよいのは誰か(役員、担当者など)
- 外部の協力会社やフリーランスに再委託する場合、事前の承諾を必要とするか
- 再委託先にも、同じ水準の秘密保持の義務を負わせるか
近年は、開発の過程で生成AIを使うことが増えています。入力した内容がAIサービス側でどう扱われるのか、学習に使われない設定になっているかは、サービスや契約プランによって異なります。NDAの段階で、AIツールへの入力を禁止するのか、一定の条件のもとで認めるのかを確認しておくと、後からの行き違いを防げます。AI開発での情報の扱いは、生成AI開発の情報漏洩を防ぐ確認点|機密と事業アイデアで詳しくまとめています。
5. 管理方法と複製
秘密情報をどう管理するかも、条文に入れておきたい点です。
- 資料の複製や持ち出しを、どの範囲で認めるか
- 共有に使うクラウドストレージやチャットツールに、アクセス制限をかけるか
- 秘密情報を扱える人を、最小限に絞るか
細かく書きすぎると運用が難しくなるため、「善良な管理者の注意をもって管理する」という一般的な表現に加えて、特に守りたい情報について個別の取り決めを足す形が現実的です。
6. 契約の期間と、秘密保持義務が続く期間
NDAには、契約自体の有効期間と、契約が終わった後も秘密保持の義務が続く期間があります。ここは見落としやすい点です。
- 契約期間は短くても、終了後も一定年数は秘密を守る義務が残るように定める
- 事業の構想の寿命を考えて、存続期間を決める
- 営業秘密として管理したい情報は、期間を限定せず守ってもらう定め方もある
期間を長くするほど守りは厚くなりますが、相手にとって負担も大きくなり、合意しにくくなります。構想が事業として公開されるまでの見込みを考えて、合理的な期間を話し合うのが現実的です。
7. 返却と破棄
相談が終わった時点、または開発の契約に至らなかった場合に、渡した資料や記録がどうなるかを決めておきます。
- 紙の資料、データファイル、メールやチャットの記録を、返却または削除するか
- 削除したことを、書面などで確認できるようにするか
- バックアップに残ったデータをどう扱うか
AIツールやクラウド上に残ったデータの削除についても、あわせて確認できると安心です。
8. 漏えい時の対応と責任
万が一、秘密情報が漏れた、または目的外に使われたことが分かった場合の対応を決めておきます。
- 漏えいに気づいた時点で、速やかに相手に知らせること
- 被害を広げないための対応を、相手が協力して行うこと
- 損害賠償や、使用の差し止めを求められること
あわせて、契約をめぐって争いになった場合に、どの国の法律を使い、どこの裁判所で扱うか(準拠法と合意管轄)も、条文に入れるのが一般的です。
双方向か、一方向かも確認する
NDAには、片方だけが秘密を守る「片務」と、お互いが守る「双務」があります。新規事業のアイデアを伝える側だけが守られるNDAでも、実際には開発会社側の資料や見積もりの内容など、こちらが守る立場になる情報も出てきます。互いに情報を出し合う関係であれば、双務のNDAのほうがバランスよく運用できます。
NDAだけでは決まらないこと
NDAは大切ですが、相談から開発までの取り決めのすべてを担うものではありません。ここで触れた3点は、NDAとは別に確認します。
成果物の権利
NDAが決めるのは「情報の扱い」であり、開発したシステムやソースコードの権利が誰に帰属するかは決まりません。受託開発では、成果物の著作権の帰属や、開発会社が持つ既存の部品・ライブラリの扱いを、開発の契約で確認します。この点は、システム開発の著作権帰属は誰のもの?契約前の確認点で整理しています。
似た分野の案件との関係
NDAは、秘密情報を目的外に使うことを禁じますが、開発会社が似た分野の別の案件を受けること自体を禁じるわけではありません。受けることまで制限したい場合は、競業の制限を別の条項として定める方法もあります。ただし、範囲を広げすぎると合意が難しくなり、法的にも有効と認められにくくなる可能性があります。
現実的には、次のような点を確認する形が多くなります。
- 渡した情報を、他の案件の検討や提案に流用しないこと
- 開発の担当者に、どこまで情報が共有されるのか
- 開発会社が持つ汎用の部品と、依頼した事業固有の部分を、どう切り分けるのか
個人情報などのデータ
顧客の氏名や連絡先などの個人情報は、NDAだけで渡すものではありません。個人情報保護法に沿った取り扱いの取り決めを、開発の契約の中で別に確認します。そもそも、プロトタイプや試作の段階では、実際のデータを使わずにダミーのデータで確認を進めるのが、情報を守る意味でも堅実です。
結んだ後の運用と、相談の進め方
NDAは結んで終わりではありません。結んだ後の運用が伴わないと、条文があっても守りは薄くなります。
渡した情報の記録を残す
いつ、誰に、どの情報を渡したかを簡単に記録しておくと、後から確認する材料になります。口頭で伝えた内容は、打ち合わせの議事録に残す、メールで要点を送るといった形で記録しておくと、秘密情報の範囲を確認するときに役立ちます。
渡す資料に秘密である旨を示す
資料の表紙やファイル名に「秘密情報」と記載しておくと、相手も取り扱いに注意しやすくなります。NDAで「秘密の表示があるものを対象にする」と定めた場合は、特に意味があります。
相談の入り口で確認しておきたいこと
開発会社を選ぶ段階では、NDAの有無だけでなく、情報の扱いに対する考え方も判断材料になります。次のような点を質問してみると、進め方の姿勢が見えてきます。
- 相談の段階で、どこまでの情報があれば検討できるか
- 開発の担当者が、どの範囲で情報を共有する体制か
- 開発で使うAIツールの扱いを、説明してもらえるか
会社選びの全体像は、システム開発会社の選び方|新規事業で失敗しない7つの視点にまとめています。相談前の準備の流れは、システム開発を依頼する前の準備と流れ|新規事業編も参考になります。
まとめ
新規事業のアイデアは、特許や著作権で守られていないことが多く、開発会社に相談する前に、契約で情報の扱いを決めておくことが実務上の基本になります。この記事のポイントを整理します。
- NDAは、伝えた情報を目的外に使わない、第三者に漏らさないと約束する契約。ただし、結べば営業秘密として認められると決まるものではない
- 相談では、情報を「概要」「事業の中身」「中核」の3段階に分け、必要な範囲だけを渡す
- 条文では、秘密情報の範囲、除外される情報、使用目的、開示してよい相手(再委託・AIツールを含む)、管理方法、期間、返却と破棄、漏えい時の対応の8点を確認する
- 成果物の権利、似た分野の案件との関係、個人情報の扱いは、NDAとは別に確認する
- 結んだ後も、渡した情報の記録を残し、秘密である旨を示して運用する
実際の文面は、事業や取引の形によって変わるため、弁護士などの専門家にも確認しながら整えるのが安心です。
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