Torvaldsがカーネル改修案をClaude Codeで作成
Linuxの生みの親であるLinus Torvaldsが、Claude Codeを使って作ったカーネルの改修案を公開しました。この記事では、公開された内容と報告された測定結果、まだ分かっていないことを整理します。そのうえで、新規事業のシステム開発で「AIが書く」と「人が確かめる」の分担をどう考えるかを、私たちJustFit編集部の見方として書きます。
10月10日付のコミットに書かれた、AIの使い方
Phoronixの報道によると、Torvaldsは自分のカーネルのリポジトリに新しいブランチ「noref-filemap-read-with-llm」を作りました。Phoronixの記者がLinux 7.3-rc7の公開を待っているときに見つけたもので、名前の末尾の「LLM」が示すとおり、AIの支援で進めているカーネル改善です。使われたのはClaude Codeです。
Torvalds自身がメッセージに書いた内容は、次のように報じられています。
- コード、テストプログラム、課題リストの元になったレビュー、説明文の初稿は、Torvaldsの指示のもとでClaude Codeが担当した
- 測定はTorvalds自身のマシンで実行した
時期については、8つのパッチからなるシリーズで、先頭のコミットは10月10日付、カーネルのメーリングリストへの投稿は10月12日だったと報じられています。
また、It’s FOSSによると、Torvaldsは同じ週にOpen Source Summit Europeで対談しています。そこでは「I actually really like using AI」と話したと、ZDNetの記者の記録として伝えられています。
改修の中身と、報告された測定結果
何を速くする改修か
改修の対象は、カーネルが「ページキャッシュ」から小さなデータを読む処理です。ページキャッシュは、ファイルの内容をメモリに置いておき、読み出しのたびに保存先へ取りにいかなくて済むようにする仕組みです。folio(フォリオ)は、カーネルがページを管理するときの単位です。
問題になっていたのは、多数のスレッドが1つのファイルから小さな読み出しを繰り返すとき、folioの参照カウントの更新で競合が起きることです。今回のシリーズは、その参照を取らずに読む方法を試すものです。カーネルのRCU(Read-Copy-Update)という仕組みを使い、ページキャッシュから外れたfolioはRCUの猶予期間が過ぎてから解放します。読み手は参照カウントに触れずに、データをそのまま取り出せます。
報告された数字
数字はTorvaldsの測定として報じられています。
- Torvaldsのノートパソコン(Core i7-8565U)で、8スレッドで16バイトずつ読む場合、1回の読み出しにかかるカーネルのサイクル数が約2,950から約725に下がった
- 同じ条件の1秒あたりの読み出し回数は、約990万〜1,040万回から3,000万〜3,300万回に増えた
- この測定ではCPUの脆弱性対策(mitigations)を無効にしている
すべての条件で良くなったわけではない、という報告もあります。ある記事は、1スレッドで1回だけ読む場合(マップされていないページ)に、サイクル数が約4,150から約6,550に増えたと整理しています。ただし、この点は私たちが複数の出典で確認できたものではありません。数字を読むときは、条件ごとに見る必要がありそうです。
現時点で分かっていないこと
- 取り込まれるかどうか:このコードは、報道の時点ではカーネル本体にまだマージされていません。Phoronixは、次のLinux 7.4のマージウィンドウで取り込まれるかどうかを見守る、と書いています。
- 人がどこまで手を入れたか:コミットの説明から分かるのは、AIが広い範囲で準備に関わったことです。プロンプトの回数や、Torvaldsが後から自分で直した部分までは分かりません。
- 測定の範囲:数字は1台のノートパソコン上の測定です。他の環境での結果は、私たちが確認した範囲では見つかっていません。
- 原文の確認方法:私たちは、カーネルのリポジトリにある原文そのものではなく、報道が引用した内容を確認しました。
この出来事は、Anthropicの製品発表ではありません。一人の開発者が、AIの使い方を公開した事例です。
編集部の見方:AIが書く部分と、人が確かめる部分が見えやすい事例
ここから先は、公開された事実ではなく、私たちの見方です。
範囲が決まった課題で、AIは力を出しやすい
今回の対象は、以前から知られていた性能上の課題です。報じた記事も、チャットボットにOSを一から作らせた話ではなく、問題はすでに理解されていた、と指摘しています。しかも、読み出し回数やサイクル数という、良し悪しを測れる指標がありました。
私たちは、AI駆動開発が力を出しやすいのは、「何を直すか」と「どう測るか」が決まっている部分だと見ています。AIと人の役割分担はAI駆動開発とは|AIと人の役割分担と発注側の要点で整理しています。
確かめる人と、確かめた記録が見える
この事例では、確かめる側がはっきりしています。コードはブランチとして公開されました。報じた記事によれば、Torvaldsは何をAIに指示したかを書き、自分のノートパソコンで測り、まだ対応が必要な課題も列挙しています。
新規事業のシステム開発をAIを使う開発会社に頼む場合も、同じ観点で確かめられると考えています。たとえば、次の点です。
- どの範囲をAIが書き、誰が読んだのか
- 動作や性能を、誰がどの環境で測ったのか
- 確認の記録が残っているのか
詳しくはAI開発でも品質には人の確認が必要な理由とAI生成コードのセキュリティ|確認点と人の役割にまとめています。
既存のコードを読む使い方も、保守に関わる
Torvaldsは別件で、assoc_arrayというライブラリを読み解くためにもLLMを使いました。その結果、報告されていたバグ1件を確認し、2013年にさかのぼる別のバグ3件も見つけたと報じられています。
AIは新しいコードを書くだけでなく、過去のコードを読み解く助けにもなるようです。長く使うシステムでは、引き継ぎや改修のしやすさが効いてきます。この点はAI生成コードの保守は可能か|引き継ぎと改修の確認点でも書いています。
新規事業では、測る前に「何を作るか」を決める工程がある
カーネルの改修と違い、新規事業のシステムは、何が成功なのかがまだ決まっていないことが多いと思います。読み出し回数のように、はじめから測れる指標があるとは限りません。
そのため、AIで速く書けるようになっても、先に決めるべきことは残ります。誰のどんな課題を解くのか、どの画面や機能で確かめるのか、といった点です。動くものを見ながら確かめる進め方は、新規事業のアイデア検証方法|動くシステムで確かめる手順で整理しています。
まとめ
Torvaldsは、Claude Codeを使って作ったカーネルの改修案を公開しました。報道によれば、コード、テスト、レビュー、説明文の初稿までを指示のもとでAIが担当し、測定は本人が自分のマシンで行っています。8スレッドの読み出しで数倍の結果が出たと報じられていますが、コードはまだマージされておらず、測定も1台のノートパソコンです。
私たちは、この事例を「AIが人に代わった」話ではなく、「AIが書き、人が確かめる」分担が見える例として受け止めています。新規事業のシステムでは、確かめる前に「何を作るか」を決める工程が残ります。
JustFitは、AIを活用した独自の開発基盤「LAF」を使い、人の役割を「何を作るかを決める」ことと「品質の最終判断」に置いています。構想をもとに約1ヶ月で動くプロトタイプを先に開発し、実物を見てから契約を判断できる進め方です。詳しくはJustFitのサービス紹介をご覧ください。
参考にした情報
- Linus Torvalds Working On A Hefty Linux Kernel Improvement With Claude Code - Phoronix
- Linus Torvalds Says He Likes Using AI, While His New Kernel Branch Credits Claude Code - It’s FOSS
- Linus Torvalds Uses Claude Code to Rework the Linux Page Cache, Tripling Small-Read Throughput - Hardware Busters
- Torvalds Used Claude Code on an Experimental Linux Page Cache Patch Series, With Small-Read Throughput Up to 3x in His Tests - PBX Science
- Claude Code Linux Kernel Patch: What Changed? - Mayhemcode